北朝鮮が9月3日、6回目の核実験を行い、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水爆実験に成功した」と発表した。果たして北朝鮮の核技術はどのレベルまで達しているのだろうか?
北朝鮮の核技術が長足の進歩を遂げていることは疑いない。2013年2月の3回目の核実験では、「小型化、軽量化」をアピールした。
2016年1月の4回目の核実験では「水爆実験に成功」と発表した。ブースター型核兵器を開発するとの意思を明確にした。
2016年12月の5回目の実験では核弾頭を「標準化した」と発表した。「標準化」は「量産」の前提である。これにより核兵器の「実戦配備」を標榜していることが示された。
6回目の今回は「ICBM搭載用の水爆実験」と謳った。ミサイルへの搭載を意図していることを宣言した。

北が公開した画像1

実験と同時に写真を公開しているが、これらの写真はフェイクである可能性もあるので、慎重に分析しなければならない。北朝鮮で公開されるすべての声明、発表、記事、文書、それに写真や映像は、何らかの政治的意図を持っていると考えるべきで、すべてを真実と受け取ってはならない。

1回目の核実験は2006年10月で、2回目との間に2年7か月の間隔があった。また2回目と3回目の間は3年8か月、3回目と4回目が2年11か月なのに対し、4回目と5回目が8か月、5回目と6回目は1年と、以前に比べて核実験の頻度が上がっていることに注目する必要がある。頻度が上がるということは開発の最終段階に達していることを意味している可能性がある。

6回目の実験ではマグニチュードで測られる核爆発の規模に注目が集まったが、規模を過大に評価することは、北朝鮮の意図を見誤る要因となる。防衛省は実験の規模を広島型原爆の10倍にあたる160キロトンと見積もったが、北が旧ソ連のツァーリ・ボンバ(9万9000キロトン)のように巨大な水爆を開発していると考えるのは、おそらく的外れだろう。
北の目標は間違いなく小型化、軽量化である。大型の戦略爆撃機を作る能力がなく、潜水艦搭載のミサイル開発に時間がかかることを考えると、核の運搬手段としては地上発射のミサイルしかない。
ミサイル開発によって運搬手段を確立し、核弾頭を小型化、軽量化して、運搬手段と核弾頭をマッチさせることが「ICBM実戦配備」の条件である。

核分裂の原料はおそらく兵器級のプルトニウム239に絞っているだろう。かつてソ連から輸入した黒鉛炉はプルトニウム239の生産に最も適しているからである。ウラン爆弾も一時期疑われたが、臨界量が多く小型化が困難なこと、ウラン濃縮に大量の電気を必要とすることなどから考えにくい。
プルトニウム型核兵器製造技術の核心は「爆縮」(implosion)である。爆縮は原料となるプルトニウムの回りをタンパーと爆薬で包み、一挙に収縮させて中性子とプルトニウムの衝突断面積を上げ、効率よく核分裂を起こす技術である。
ただしタンパーの製造や爆薬の配置には高度な精密工学的な技術が必要で、コンピュータでのシミュレーションも及ばず、実験により確認するしか手段はないと言われる。

広島型原爆はウラン235を原料としたガンバレルタイプ(砲身型)で、爆発効率は約1.3%だった。これに対して長崎型原爆はプルトニウム239を原料とした爆縮型で、爆発効率は17%だったと言われる。小型化には間違いなくプルトニウム239が適している。
「水爆」への言及はブースター型核兵器を目指すとの政治的意図の表れである。ブースター型は核分裂と核融合を組み合わせて、単位時間当たりの中性子発生数を最大化し、連鎖反応の効率を上げる技術である。核爆発では連鎖反応の最終段階での中性子数が、威力を決める。
「水爆」の原料は重水素(D,デューテリウム)と三重水素(T,トリチウム)である。一般にD-T反応と呼ばれる。重水素は天然に0.015%含まれており、海水から抽出することが可能である。カナダ型重水炉(CANDU)や日本の新型転換炉(ATR)では、中性子の減速材として使われている。
一方のトリチウムは自然界にわずかしか存在しないことから、リチウム(Li)に中性子を照射するなどして、人工的に純度の高いものを精製する。
ブースター型の核兵器はまず核分裂で高温、高圧を実現して核融合を誘発し、核融合で生じた中性子が核分裂の連鎖反応を「ブースト」する仕組みである。いわばハイブリッド型の核爆弾である。
トリチウムは半減期が12年であるから、兵器に装荷して時間が経つと使えなくなる。使う直前にトリチウムを装荷する方法も技術的には工夫を要すると言われている。

ブースター型核兵器の利点はまず小型化に適していることである。同じプルトニウム239の量に対して、ブースター型核兵器は5倍から10倍程度、威力をアップすることができる。
もう一つの利点は、封入するトリチウムの量によって、爆発威力を調節することができる点である。今回の実験について北の核兵器研究所は声明で、「核兵器の威力を攻撃対象と目的によって任意に調整できる高い水準に達した」と述べており、完全に呼応している。

運搬手段のミサイルは、正確な能力が不明である。ロケットの専門家は「全長」と「直径」が分かれば、およその能力は想像がつくと語る。ミサイルの能力を決めるのはエンジンと燃料である。
「火星12号」は全長16メートルほどだ。日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げたL(ラムダ)-4s程度の能力程度と仮定すると、低軌道投入能力は25キロほどである。
「テポドン2改良型」は全長約30メートルだ。M(ミュー)-3sと同程度とすると、低軌道投入能力は700キロを超える。
7月に打ち上げられた「火星14号」の諸元は不明であるが、「火星12号」の改良型と考えるのが、命名からして自然だろう。
ミサイルの打ち上げ実験は今後も頻繁に行われるだろう。ミサイル打ち上げの成功率を上げる努力は容易ではない。「おおすみ」を打ち上げたラムダ-4sの打ち上げは5回のうち4回失敗した。成功率はわずか20%である。
核搭載のミサイルは信頼性が第一で、失敗が許されない。北朝鮮は打ち上げ成功率を上げるためのミサイル実験を、今後も頻繁に実施するだろう。

こうした事実を認識したうえで、国際社会はどう対応すべきか。安倍首相が繰り返す「国際社会と連携して圧力を強める」とか、「制裁を強化する」などの手法がこれまで一度として功を奏したことがないことを真摯に認めるべきである。
中国に影響力の行使を期待することはなおさらできない。国境から北京までの距離は900キロである。中国は北の脅威を肌で感じている。
北に核兵器を放棄させる手立ては、少なくとも現在のところないという冷厳な事実を、まず直視しなければならない。

北が公開した画像2

そのうえで米国、中国、韓国、日本、ロシアが何をなさなければならないか、考えるべきだろう。武力による解決はありえない。ソウルは国境から50キロである。在韓米軍、在日米軍だけでなく、中国、韓国、日本を含めた周辺国の市民に甚大な被害を及ぼすだろう。
北朝鮮から他国への核拡散も懸念される。核の保有に必要なことはただ二つである。「核を保有する」という「意図」と核兵器製造の技術的「能力」である。日本は世界から「核保有」の「能力」はあるとみなされているが、「非核三原則」によって、かろうじて「意図」を放棄していると受け止められている。
一方、能力はないが「核保有」の「意図」がある国やグループはあまたある。北がこうした国への核技術移転にコミットすると、歯止めなき核拡散が始まるだろう。
いま私たちは19世紀ドイツの戦略家クラウゼヴィッツの次の言葉を深く心に刻む必要がある。

戦争は政治の延長であり、兵器は使われるために存在する。

倉澤 治雄
千葉県生まれ、開成高校卒。1977年東京大学教養学部基礎科学科卒、79年フランス国立ボルドー大学大学院修了(物理化学専攻)、80年日本テレビ入社。原発問題、宇宙開発、環境、地下鉄サリン事件、司法、警察、国際問題などを担当。経済部長、政治部長、解説主幹を歴任。著書は「福島原発事故に至る原子力開発史」(中央大学出版部)、「原発ゴミはどこへ行く」(リベルタ出版)、「原発爆発」(高文研)、「テレビジャーナリズムの作法」(花伝社)、「徹底討論 犯罪報道と人権」(現代書館)「原子力船『むつ』 虚構の航跡」(現代書館)ほか