「救急医療体制の崩壊は始まっている」-。日本救急医学会と日本臨床救急医学会が24日、日本記者クラブでオンライン会見を開き、新型コロナウイルス感染拡大により心筋梗塞など他の重症患者の救急受け入れが困難になっている危機的状況を訴えました。

救急医療現場でのひっ迫した状況について説明する、嶋津岳士日本救急医学会代表理事(左)と、坂本哲也日本臨床救急医学会代表理事

発熱患者 救急受け入れ拒否

日本救急医学会の嶋津岳士代表理事は「感染が陰性でなければ、救急患者を受け入れない施設が増えている」と指摘。発熱や肺炎の疑いがある患者は、迅速な対応が必要な脳卒中などの症状があっても受け入れてもらえないケースも出ていると言います。拒否された患者は、最終的に救命救急センターが受け入れます。が、その間に時間が経過し、治療の開始が遅れる事態にもなっているといいます。

同学会が4月に会員に行ったアンケート調査によりますと、地域の医療体制について以下のような事例も報告されました。

1)指定医療機関ではないが、発熱患者を受け入れると、30㌔㍍離れた病院からも日中に肺炎患者の紹介が増えた
2)二次医療圏外からの肺炎患者の受け入れが増えた
3)一時受け入れの患者が要入院となった場合、転院先を探すのに3時間以上かかるようになり救急受け入れをストップせざるを得ない状況になった

 日本臨床救急医学会の坂本哲也代表理事も、「東京では病院に依頼をして5件以上断られるケースが4月に入り3、4倍となっている」と危機感を募らせます。

 患者を受け入れた後にPCR検査「陽性」となるケースも増えているとし、その場合、患者に接触した医療従事者は隔離しなければならず、院内感染の可能性も大きくなるため、結果的に救急患者受け入れを拒否する原因となっているといいます。両学会は救急医療体制維持のため、より迅速な検査の必要性を訴えました。

防護具不足が深刻

 このように、救急医療現場での負担は増していますが、医療従事者が自らをウイルス感染から守る防護具が圧倒的に不足しています。アンケート調査でも、「サージカルマスクは週に2枚、N95マスクは1人1つで交換なし」「N95マスクは1週間に1度の交換。アルコールも不足している」「N95などの防護具が十分に供給されないと、いずれ立ち去る医者などが続出する」と現場のひっ迫した状況を訴える報告が多く寄せられました。
 
 両学会は国に対して、個人防護具の安定的供給や医療従事者への危険手当の支給、心理的サポート、宿泊施設の確保などを求めていくことにしています。また、国民に対しては両代表理事ともに「患者さんが増えないことが、医療現場の負荷を減らすことにつながる。感染を防ぐ行動をしてほしい」と訴えました。

村上 睦美
医療ジャーナリスト。札幌市生まれ、ウエスタンミシガン大卒。1992年、北海道新聞社入社。室蘭報道部、本社生活部などを経て、2001年東京支社社会部。厚生労働省を担当し、医療・社会保障問題を取材する。2004年、がん治療と出産・育児の両立のため退社。再々発したがんや2つの血液の難病を克服し、現在はフリーランスで医療問題を中心に取材・執筆している。著書に「がんと生き、母になる 死産を受け止めて」(まりん書房)