防護具不足、看護職への差別・偏見 新型コロナ治療最前線から訴え
日本看護協会の福井トシ子会長が22日、日本記者クラブで記者会見し、新型コロナウイルスに対応する医療現場で感染防護服が不足しゴミ袋を代用するなど切迫している現状を報告しました。また、感染リスクと隣り合わせで患者に対応する医療従事者に対して国民の中で偏見や差別が生じていることについても説明。福井会長は「看護職の置かれている状況を想像し、共感してほしい」と呼び掛けました。
19都道府県54施設で783人院内感染
福井会長はまず、全国の院内感染の状況について報告。同協会の集計によりますと4月20日現在、19都道府県の54施設で783人が感染。最も多いのは東京都の8施設計375人、次いで北海道の7施設95人、兵庫県の5施設計55人、福岡県の3施設55人です。
医療現場での現状としては、次の4つを上げました。
1)防護具の不足により、十分な感染防止策が取れない
2)感染患者の受け入れのために、手術の延期や外来患者の予約キャンセル、一般病棟閉鎖による看護師の移動などで人員配置を再調整している
3)感染患者へのケアは、看護の根本にかかわるジレンマを生じさせている。寄り添い、触れるなどが制限され、亡くなった患者に対してはエンゼルケア(死後の処置)が行えず、ストレスを抱えている
4)感染患者が入院している医療機関名が報道されたことにより、タクシーの乗車が拒否される、看護師の子どもが保育所の預かりを拒否される、いじめを受けるなどの差別を受けている
75㍑のビニール袋代用
福井会長は「感染者を受け入れている施設だけでなく、すべての医療機関、訪問看護ステーション、介護施設で医療資材が不足している」と説明。防護具について、「75㍑のビニール袋を使用して対応に当たっている」「防護具なしに対応してほしいと支持された」「マスクを使用できるスタッフや使用枚数が限られている」という現場からの声を報告しました。
また、感染者を受け入れる病棟では、「対応する看護師も単身者等の条件で選抜され、自分や家族への感染が不安で精神的に辛い」「妊娠を継続しながら勤務しており、家族からは『出勤するな』と言われ、とはいえ仲間をないがしろにできず苦しい」という声も上がっていると説明。「医療従事者のメンタルヘルスに注意する必要がある」と指摘しました。
これらの課題について、日本看護協会は新型コロナウイルス感染症に対応する看護職に対する危険手当の支給や妊娠中の看護職員の休業に伴う代替職員の確保、希望者への公費負担でのPCR検査の実施、などを国に要望しています。
『おつかれさま』のひと言を
福井会長は「看護師へのエールは、まずは皆さまが感染しないことです」と国民に呼び掛け。また、「私たちは『おつかれさま』『ありがとう』のひと言で報われます」とし、最前線で対応している看護職への応援と理解を求めました。
医療ジャーナリスト。札幌市生まれ、ウエスタンミシガン大卒。1992年、北海道新聞社入社。室蘭報道部、本社生活部などを経て、2001年東京支社社会部。厚生労働省を担当し、医療・社会保障問題を取材する。2004年、がん治療と出産・育児の両立のため退社。再々発したがんや2つの血液の難病を克服し、現在はフリーランスで医療問題を中心に取材・執筆している。著書に「がんと生き、母になる 死産を受け止めて」(まりん書房)