はじめに

 最近の原子力災害に対する考え方は、裁判所では「差し迫った危険はない」ですべてをかたづけているし、原子力規制委員会の考え方も「福島第一原発事故の原因究明は、将来原子炉内を見ることができるようになってから・・・」というものである。裁判(2019年3月15日山口地裁支部)等で問題となっている中央構造線は「活動層が存在するとは言えない」し、「伊方原発運用期間中に阿蘇巨大噴火の可能性は十分小さいと判断できる」というものであり、裁判官にとってはどちらも発生の可能性は十分に小さく社会生活には直接影響を与えるほどの現実の問題ではない、すなわち社会通念上無視できるということであろう。
 原子力規制委員会の判断は福島第一原発事故は想定外の予測不可能であった津波襲来によって「全電源喪失」にたまたま至ったということが分かっているのだから、その原因追及は原子炉内の調査が終了する(何十年も後)まで、その原因が確定されていなくても、同じ自然現象が再び起きるとは考えにくいので、現実に国民を危険にさらすことにはならず、おそらくこれが原因で原発の輸出ができなくなるとはも思わない、というものであろう。

 これに対して私は「南海トラフ地震」によって、昨年9月6日に発生した北海道全島停電(ブラックアウト)が四国でも必然的に発生し、原発の「外部電源喪失」が発生し、その時に福島第一原発が示すようにECCS(非常用炉心冷却装置)を直ちに動かさなければ、原発はメルトダウンすることを説明したい。
 そのうえで南海トラフの地震発生は第1表のように100年以下であることを考えると、裁判所が「差し迫った危機はない」と言うのは正しいのか、原子力規制委員会が「事故原因究明は原子炉内の調査結果を見てから・・・」というのが間に合うのかを考えてほしいと思う。

 本文の構成としては、南海トラフ地震が原発のメルトダウンを誘発するとは一般に考えられていないと思うので、議論の前提として第1部に原子力防災(ECCSの必要性を含む)、その後に今回の主題として第2部に南海トラフ地震が発生した時の具体的な状況を述べたい。したがって、第1部を飛ばして第2部から先に読んでいただいてもよいと思う。

地震調査研究推進本部のHPより

第1部 原子力防災

避難計画

 山口地裁支部決定(2019.3.15)は「地震と過酷事故が重なれば速やかな避難や屋内退避は容易ではないように思われるが、伊方原発の運転などで住民らの居住地や周辺に放射性物が放出される具体的危険が存在すると立証されたとは言えない。」と言っている。「立証されなければ危険だと司法は考えない」というのは、「福島第一原発事故が想定外の事故だった」という規制側の考え方と異なり、互いに矛盾していると思う。このような矛盾が出てくるのはなぜなのかを考えてみたいと思う。原発事故を起こしてはいけない、という法律があるのに、避難計画が必要だとすることが矛盾だと考えたことがあった。ひと昔前は、原発の避難訓練に住民を参加させることは、「原発で事故が起きるというのか」といって国から反対されたと記憶している。

 実態はどうなのかと考えると、事故を起こしてはいけないという法律の下でに立地審査指針というのがあって、仮想事故時のめやす線量として 発電所敷地周辺に人が立ちつづけた場合、
 ・甲状腺被ばく(成人)3Sv、
 ・全身被ばく0.25Sv 
以下とする設計にしなさいという安全審査によって、伊方原発の1、2、3号ともこの条件を満たす設計になっている。仮想事故の考え方として、「重大事故を超えるような技術的見地からは起こると考えられない事故を仮想しても、周辺の住民に著しい放射線災害を与えないこと」となっているから、法的には著しい放射線災害は万一にもないありえないことになっている。

 一方防災のほうでは、福島第一原発事故前は、防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲(EPZ)を原発から10㎞としていた。事故後は 予防防護措置区域(PAZ)を5㎞、緊急防護措置区域(UPZ)30㎞としている。重大事故が起きた時に5㎞以内区域の人たちが避難する間30㎞以内区域の人たちは邪魔にならないように待機していなさい、ということになった。
 この矛盾を私はうまく説明できないのだが要するに、法律では住民に放射線の影響を与えてはいけない、となっているのに避難計画では重大事故が起きた時には住民の全員が当局の指示に従って、5㎞以内のグループと30㎞以内のグループが一糸乱れずにそれぞれ避難すべきと決められていて、さらに福島第一原発事故の被災者のうちで自主避難した人への処遇が冷たく厳しすぎるという事実が現実的ではないと映るからではなかろうか。

 私の個人的な考えかもしれないが、避難計画は以下のように考えられる。自然災害の場合は、津波、洪水、山崩れ、(それに火災も入るであろうが)等の際に、避難を強制されても違和感はない。しかし原発は、その建設時に「重大事故は起きません。実際に避難するようなことにはなりません。避難訓練は形だけです。」と言われて原発を受け入れてきた過去があることも考慮すべきではないだろうか。要するに、自然災害ではない原発災害は「避難付きの原発」として受け入れるか拒否するかの選択権が周辺住民団には存在するのではないだろうか。
 もっと厳密に考えれば、住民も一律ではなく、a法的には逃げなくてよいように設計されているのだから、自分には逃げずにここにとどまる権利があるというグループと、b関係者はまだ大丈夫だと言っているが、想定外のこともあると思うので自分たち(特に幼児)は自主的に避難する自由があるというグループが存在すると考えるべきではないのだろうか。
 結論として、国はaのグループに対しては、メルトダウンを絶対に起こさないシステムを作りこれを健全に管理する責任があり、同時にbのグループに対しては、重大事故の可能性が出てきた段階(例えば原災法10条時点)で逃げたい人を避難させることのできる避難計画を作ってこれら互いに矛盾する要求に対応する責任があるのではないかと愚考するのである。

 なお、避難計画が南海トラフ地震の議論に関係ないのではというご意見もあろうが、司法がお墨付きを与えた避難計画があるから大丈夫さ、というのではなくあくまで原子力防災の原則は「事故を起こさない」すなわち「メルトダウンを絶対起こさない」ことであることを強調しておきたい。

炉心冷却とECCS

 福島第一原発事故がメルトダウンに至る大事故でありながら、伝家の宝刀に相当するECCS (非常用炉心冷却装置:HPCI:高圧注入系)が使われなかったことを考えたい。福島第一原発はBWR(沸騰水型)原発であり、原子炉内の残圧を使って駆動するECCS(HPCI)を持っていることが最大の特徴である。2011年3月11日14時46分に地震が発生し、福島第一原発の1、2、3号機はほとんど同時に緊急停止した。
 1号機はIC(非常用復水器)が自動起動し、2、3号機はRCIC(原子炉隔離時冷却系)を運転員が手動で起動したが、いずれも本命のECCS(HPCI)の10分の一しか冷却能力がないため、延命でしかなく結局はメルトダウンしてしまった。
 緊急停止直後は炉内圧が高いため、HPCIとRCICしか炉内に注水できない。故吉田所長は非常用ディーゼル発電機が動いているのを見て安心した、とおっしゃっているが、HPCIとRCICは蒸気駆動だから、緊急停止直後の炉内圧が高い間、非常用ディーゼル発電機の電気は炉心冷却に寄与していない。

 GEの標準的な手順は「緊急停止時には、蒸気駆動のHPCIとRCICを同時に起動させる」となっている。ちなみに、原電の東海第二は福島第一原発と同様に地震で外部電源を失って緊急停止したのだが、第2表に示すように、GEの定めた手順どおりに、ECCS(東海第二は高圧炉心スプレイ系)とRCICがほぼ同時にが、2~3分以内に自動起動している。
 日本の専門家たちが、RCICが運転員の手動で動いて少ないなりにも注水していたのだから、炉心水位は維持できて炉心冷却はできていたと思っているようだが、東海第二の動きをみると、原子炉水位は一瞬かもしれないが、ECCSとRCICを自動起動するほどに低下するのだということを示しており、GEの設計者がこの一瞬をとらえてECCSとRCICを必ず起動するように考えていたのだと思う。東電の原発が緊急停止時になぜ自動起動しなかったかは、謎だとここでは言うしかないが、拙著「推論 トリプルメルトダウン」ではその理由を推論している。
 3号機は翌日の昼頃自動起動したではないか、という意見もあるが、こんなタイミングで自動起動しても何の役にも立たないし、「RCICが自動停止したため、HPCIが自動起動した」という東電の説明には、駆動蒸気条件を考えれば順序が逆だろう!というしかない。非常用ディーゼル発電機の電力を使うLPCIを使って冷却を行うためには、原則として原子炉の減圧という手順を使って炉内を低圧にしなければならない。あるいは、東海第二のようにECCSとRCICを使って炉内が減圧されれば特に意識しなくてもスムーズに非常用ディーゼル発電機の電気を使ってで駆動されるLPCI(低圧注入系)が使えるようになる。ここまでくれば、一応通常運転の行動になるであろう。

 しかし、福島第一原発はECCS(HPCI)も使わなかったし減圧もおこなわないままで津波を迎えてしまったので、あとはこの高圧のままの炉心を無理やりベントで大気圧近くまで降圧して、消防車ポンプや消火ポンプで炉心に注水しなければならなくなった。第3表に重大事故時の炉心冷却の順序を示す。
 ベントして、消防車や消火ポンプで注水すればメルトダウンは避けられたはず、と考えるかもしれないが、70気圧もある原子炉をベントする時間は想像を超えるであろう。ぐずぐずしていれば、炉心内の燃料がメルトダウンしてしまい、放射性物質が飛び出してくることになる。
 GEの設計者がフィルター付きでないベントでよいとしたのは、おそらくECCS(HPCI)が自動起動していることを前提としたため、メルトダウンに直に備える必要はなく、S/C(サプレッションチャンバー)の水をくぐらせれば十分とみたのではないだろうか。ECCSが動かないなどと考えるほうが非常識なのだ。
 そういえば、フランスのアレバ社の元CEOアンヌ・ロベルジョン女史は「原子炉冷却の手段が確保できていれば起きなかった事故だ」と言っているし、当日の米国NRCでも「水、水」と言っていたという。日本では、「電源車、電源車」と言っていたのだった。

東海第二原発の状況(原子力安全推進協会HPより)

 福島第一原発事故の原因は、BWRの最大の特徴である「蒸気駆動のECCSを備えて外部電源喪失には最も対応できている」はずのECCSを金縛りにしていたため活用できなかったということである。今回のテーマではないが、蒸気駆動のECCS(HPCI)を持っていないPWR(加圧水型)はこの点で重大事故時の信頼度が劣っていることは否めない。次の第2部では、南海トラフ地震時の外部電源喪失や火山の巨大噴火の際には、直ちに緊急停止しECCSを起動することをルール化するべきことを説明する。

第2部 南海トラフ地震が発生するとどうなるか

背景

 私は、高知大学の医学部の非常勤講師をこの7年間に年2回づつ行ってきた。高知大学では救急医療に力を入れており、南海トラフ地震が襲来して来た時を想定して研究が続けられているが、私は、原子力の専門家でありながら、「南海トラフ地震の時に原発はどうなるのか?」という問いかけに説明できないことを悩んでいた。
 拙著「推論 トリプルメルトダウン」では、原発の天敵は「外部電源喪失」であって、福島第一原発事故の時に、津波が来る前、の地震到達時に原子炉が緊急停止した段階でただちにECCS(非常用炉心冷却装置:HPCI)を動かすべきだった、という主張をしている。しかし、南海トラフ地震が太平洋側で発生した時に、伊方原発が「外部電源喪失」状態になると説明するのは、四国全体のブラックアウトが必然的に起こるという説明が必要だがそれができなかった。

 ところがご存知のように去年9月6日に、胆振地方の地震によって北海道全体が停電になってしまった。私は、大学の卒論期間を電力系統工学の関根泰次先生の研究室で過ごしたので、当時発生したニューヨークの大停電と同じことが、四国でも起きるだろう、と危惧しながら四国電力に入社したものだ。けれど、さすがに北海道大停電が発生するまでは、公の場で「四国で島内大停電が起きる」とは言えなかった。

昨年、 高等学校時の友人であるお茶の水大学名誉教授の一人から以下のような的を得た質問があった。

追伸:松野さん南海トラフの巨大地震を心配されていますが、伊方原発は大丈夫なのでしょうか。阿蘇山の巨大噴火より、もっと現実味があるような気がします。

四国全体のブラックアウト(島内全停電)の可能性について

 電気新聞2018年11月29日1面で関根泰次東大名誉教授(電力系統工学専門)がインタビューに答えて、広域全停電は、「近代の電力系統が抱えた宿命的な弱点」である、と言っている。発明王であり米国電力会社の創立者の一人であるエジソンは、直流送電がよいと考えていたようだが、将来の送電が大容量になることを考えると、高圧送電が必要となるとして変圧器を使って電圧を変えることのできる交流送電が採用されたのだが、交流送電を採用したために「交流の同期が維持されない限りエネルギーのやり取りはできない」ことになってしまった。この点、直流であれば、電圧が低下してもそれなりに電力系統は効率が悪くなるが系統の形は維持できはずだった。関根教授がインタビューで語るように、「一般の人にも電力系統のことはわかりにくい」のであって、私も事前にその必然性を一般の人たちに説明できなかった。
 北海道電力では胆振地方の局部的な地震を起因として、連鎖的に北海道全島が停電になったのであるから、四国においても、南海トラフ地震が広範囲で起きたときに、広範囲における送電鉄塔や送電施設が使用不能になり、送電網がずたずたに切り離されて、発電と消費のバランスが四国中いたるところで崩れて、電力系統の崩壊が連鎖的(波及的)に起きる可能性は否定できない。
実際に、1965年秋のニューヨークマンハッタン島の大停電があり、去年2018年9月の北海道全島の全停電が現実に起こっている。四国での島内全停電も宿命的なものであろう。

南海トラフの巨大地震が起きるとどうなるか

 中村知事は、「南海トラフ地震で伊方に大津波が来るとは考えられない」と言っており、原発裁判では、「中央構造線による地震への耐震設計が不足している」ということが争われているが、福島第一原発事故は原子炉施設の耐震性が不足していたのではないし原発裁判では差し迫った危険性(活動性)はない、とされている。中央構造線が危ない、ということを否定する気はないが、福島第一原発事故からの教訓に話を絞れば、南海トラフ地震の影響によって伊方原発がメルトダウンする最も大きな、そして現実的なシナリオは、四国全体が昨年9月6日の北海道電力のブラックアウトと同じ状態になって、外部電源を失い原子炉を冷却できなくなることだと思う。
 地震発生による原子炉の緊急停止と同時に、「ECCS(非常用炉心冷却装置)を必ず動かして炉心を直ちに冷やす」というルールが確立されないままで再稼動を進めている日本の規制当局の、無神経さが露呈すると思う。

南海トラフ地震で全停電が起きると電力会社は何をしようとするか

 2018年9月6日の北海道大停電が起きたとき、北海道電力は泊原発への電力送電を最優先したと伝わっている。泊原発は福島第一原発事故の後停止しているので、原子炉内は冷えており、使用済み燃料を冷やすだけの必要があったのだが、それでも泊原発への送電を最優先したのであるが、もし泊原発が再稼動していたといたら、崩壊熱を最も大きく発生いている緊急停止直後の原子炉をただちに急速冷却してくれたかどうかは怪しいと思われる。
 福島第一原発事故の時は、地震で送電鉄塔が倒れて、送電線からの電気を受け取ることができなくなり、非常用ディーゼル発電機がただちに起動したにもかかわらず、東電は、①ただちに炉心内の残圧を使って駆動するECCS(非常用炉心冷却装置HPCI)を使って崩壊熱を冷すこともなく②せっかく自動起動した非常用ディーゼル発電機の電力で動くLPCI(低圧注入系)を使うために原子炉を減圧するという手順も取らなかった。①や②という崩壊熱冷却を考えないままで、50分後の津波襲来を迎えてしまった福島第一原発はなすすべもなくメルトダウンしてしまったということであり、国の原子炉規制委員会はこの点を指摘しないままで、伊方等の原発の再稼動を承認してしまっている。だから、外部電源を失った伊方原発が原子炉規制委員会の指導のままで再稼動しているとすれば、外部電源喪失がそのままメルトダウンへの道を進むであろうことは福島第一原発の事例が明確に示している。
 さらに、全停電後の復旧に当たって電力会社は全力を挙げて原発の復旧を急ぐために、遠くの水力発電所などの電気を原発にはるばると送って、原発の復旧に勤めることになることも北海道電力の場合を見ると明確である。

 原発を持つ電力会社は大地震発生時点から大停電中そして原発の復旧まで全力を挙げて原発の復旧等を最優先するのであり、その間、末端のことは忘却されることが容易に想像される。この点、南海トラフ地震で最も被害が大きいであろう高知県にはたくさんの水力発電所があるのだから、これと高知市の主要地点を組み合わせた復旧計画を、四国全体の復旧計画とは別の立場であらかじめ作成しておくべきではないか。

火山の噴火とどちらが深刻か

 四国電力は、伊方1,2号の建設に対応して、本川揚水発電所30万キロワット2台を作った。伊方3号の時にはこれに対応した揚水発電所は作らなかった。そのころは、日本では原発の重大事故は起きないと経営者たちが考えて、原発のコストを削り始めていた。
 確かに、四国と本州を結ぶ電力連繋ケーブルを設置したので、これらが揚水発電所の代わりに系統安定度に寄与するとの期待があるのかもしれないが、北海道のブラックアウトではあまり機能しなかった。将来は、電源と需要をバランスさせるためにAIを導入して対応すべしという動きもあるように、現在、国や電力会社はブラックアウトに対しては、種々の対策を考えているようだが、これらはあくまでも電力系統の安定度対策である。
 原子炉の側から考えると、原子炉のメルトダウンを起こす原因は、外部電源喪失、地震、テロ、洪水、地滑り、運転員の勘違い、経年劣化などが考えられるが、これらすべてに対応するためには、拙著で主張している「ECCSをただちに動かす」ということだと考えている。

 火山のリスクについて考えると、四国電力は、「広島高裁が許してくれたから火山のリスクはない」としているようだが、私の考えから言えば、阿蘇山が噴火したという情報が届いたら、ただちに原子炉を緊急停止し、同時にECCSを使って原子炉を急速に冷やせば、火山灰が伊方に到達する前に崩壊熱が一番大きい時期の原子炉の冷却ができ、メルトダウンは避けられると思う。

おわりに

 2007年1月に「原子力防災」を発表した時、世間では「日本の原発はチェルノブイリ原発と違って格納容器を備えているから、チェルノブイリ原発事故のようなことが起きても周辺に与える影響はない」という考え方が蔓延していた。 私の拙著は「格納容器が壊れるほどの事故が起きれば、30㎞の範囲で25時間以内に避難しなくてはならなくなる」というものであり、その正しさが証明されたのがほかでもない2011年3月11日の福島第一原発事故だった。
 2016年8月に「推論 トリプルメルトダウン」を発表して「外部電源喪失事故は設計基準事故と分類されており重大事故扱いとなっていないが、この時にECCS(非常用炉心冷却装置)を直ちに動かさなければ立派な重大事故であり、福島第一原発事故はそのために冷却が遅れて重大事故となりメルトダウンした」と主張している。
 この主張が、南海トラフ地震発生によって証明されるようなことになるのは、著者として悲しいことだと思っている。

松野 元
高知大学非常勤講師、原子炉主任技術者、第一種電気主任技術者。1945年愛媛県松山市生まれ。1967年東京大学工学部電気工学科卒。同年四国電力入社。伊方原子力発電所、東京支社等で勤務。2000年原子力発電技術機構(後のJNES)に出向、ERSS(緊急時対策支援システム)の改良実用化にあたる。2004年、四国電力退職。著書「原子力防災」(創英社/三省堂書店)「推論 トリプルメルトダウン」(創英社/三省堂書店)