今回はロシアからお伝えしたいと思います。
 今年で3回目となる、「ボリショイバレエ学校インターナショナルワークショップ」をモスクワで開催しました。何回訪れても、ロシアの美しい街並みには心が躍ります。
私が初めて旧ソビエト時代のロシアを訪れたのは1991年でした。その時に比べると、比べ物にならないほど豊かな国になっています。

 当時は、ペレストロイカの真っ只中で、国は混乱していました。その日食べるものの確保も大変なその時代、芸術に関して地位は、世界で指折りでした。
すばらしい芸術に触れることにより、心は満たされて真の豊かさを感じることができる時代でした。


ノーバヤオペラ近くの噴水にて

 今回3回目となるこのワークショップ、48人の若い才能溢れたバレリーナたちをお連れしました。日本からモスクワまで同行し、ボリショイバレエ学校の寮に一緒に寝泊まりしました。私は毎回、ボリショイの寮に訪れるたび複雑な感情が湧き起こり、25年前の想いがよみがえってきます。時代は目まぐるしく変わっていきます。
 25年前には、夢と希望だけを持って出発した私。それからたくさんの経験を経て、今に至ります。

 ロシアから、アメリカ、ヨーロッパ、世界各地で過ごしました。しかし、ロシアの時代は私にとってかけがえのない時間となりました。ボリショイバレエ学校留学時代ロシアで過ごした3年間と、プロとして働いた期間は、私の人間として、そしてバレリーナとしての土台を築いてくれました。今では当時に比べてロシアは本当に便利になりました。


ボリショイバレエ学校のスタジオにて

 ロシアと言うか、首都モスクワがすさまじい変化を遂げました。どんなものでも大体手に入る世の中になりました。モスクワの人も少し変わったように思います。昔のように、助け合って生きていた時代ではなく、一人一人がIndependienteなったような気もします。


救世主ハリストス大聖堂

 しかし芸術や、素晴らしい建物、美術館は全く変化していませんでした。ロシアの街並みは、赤やピンク金や緑などカラフルです。そして、建物や橋などあらゆるところに彫刻が施してあり、まさに町全体が美術館のようです。


クレムリン広場から続く道

 モスクワのクレムリンなど都心は豪華で見ているだけでもスケールの大きさと国の歴史の重さを感じます。サンクトペテルブルグは、パステルカラーの建物も多く、明るい雰囲気で、個人的に私はモスクワよりも好きな位です。

 旧ソビエト時代、そしてペレストロイカから今に至るにあたり街並みは変化していないどころか、もっともっと美しく歴史のあるものになっています。これは本当に嬉しいことです。
芸術家としては、自分の感性を磨き、豊かにできる環境にある事はこの上ない幸せだと思います。


赤の広場聖ワシリイ大聖堂

 今回1週間の滞在で、私の心の土台であるロシア、そして変わらない芸術の素晴らしさにもう一度感謝します。ロシアについては、まだ書きたいことがたくさんありますのでまた続編で書いていきたいと思います。

針山 愛美
神戸女子学院大学音楽学部客員教授
1993年 ボリショイ・バレエ学校入学、1996年首席で卒業。モスクワ音楽劇場バレエ団に入団。以後、エッセンバレエ団、バレエインターナショナル、クリーブランド・サンノゼバレエ団などで活動。2004年から2014年までウラジーミル・マラーホフが芸術監督を務めるベルリン国立バレエ団で活躍。1996年パリ国際バレエコンクール銀賞ほか受賞歴多数。現在もベルリンを拠点に活動を続けるとともにコンクールの審査員を務めるなど後進の指導にあたる。